オイゲン |
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「リュナン様
ようやくリーヴェ河に
たどり着きました
河を越えれば我らが祖国
リーヴェランドです」 |
リュナン |
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「むこうに見えるのが
ゼムセリアの街だな」 |
オイゲン |
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「さようです
ゼムセリアは
リーヴェ王国の西の玄関口として
古来より栄えてきた大都市」
「太守であるドルム公爵家は
リーヴェ王朝4家門のうち
王家に次ぐ有力貴族ですが
先の戦争では、戦い半ばで我らを裏切り
帝国に寝返りました」
「ドルム公爵はその功により
帝国よりラゼリア領を与えられ
息子レンツェンハイマーが
ラゼリア太守となって
過酷な圧政を行っております」
「ドルム公爵家は我らが宿敵
決して許してはなりませぬぞ!」 |
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ドルム |
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「ジュリアス王子
約束が違うではないか
なぜカナン兵を引き上げたのだ!」 |
ジュリアス |
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「公爵の手間を省いたつもりだが
不満なのか」 |
ドルム |
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「私の手間を省いた……
それはどういうことだ」 |
ジュリアス |
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「公爵のことだ
戦いが不利になれば
我らの命と引き換えに
敵に寝返るつもりだろう
可愛い部下たちをハイエナの群れの中に
置いておくことはできないからな」 |
ドルム |
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「な、なんと!……
我らが帝国を
裏切るとでもい言われるのか!」 |
ジュリアス |
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「我らと同盟軍が本気でぶつかれば
双方に多大の損害が出る
漁夫の利を得るのは
卿ただ一人と言うわけだ」 |
ドルム |
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「うっ……」 |
ジュリアス |
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「私はカナンに帰国する
この地は公爵にお返ししよう
あとは卿の好きにすればいい」 |
ドルム |
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「くっ、若造め……」 |
レンツェン |
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「相変わらずカンのよい男ですね
父上」 |
ドルム |
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「レンツェン
来ていたのか……」 |
レンツェン |
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「ラゼリアは砂埃が酷くて
私には似合いません
父上にはもっと働いていただかねば
私の努力が水の泡です」 |
ドルム |
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「お前が何の努力をしてきたというのだ
お前がやったことといえば
実の母親である我が妻を殺し
その罪を旅の傭兵に
なすりつけたことぐらいではないか!」 |
レンツェン |
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「母上は
気がおかしくなっておられたのです
会うたびに
「人でなし」呼わばりされては
いくら大人しい私でも
カッとなってしまいますよ」 |
ドルム |
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「ラゼリア市民に対するお前の仕打ちが
あまりにも酷すぎたからだ
子供を叱るのは母親として当然だろう」 |
レンツェン |
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「ええ
私もやった後に後悔はしたのです
母親を殺した事が世間にもれれば
いずれはリーヴェ王となるはずの
私の経歴にも傷がつく
どうするかと考えているところに
あの女が現れました」
「館の警備に雇っていた女傭兵ですが
たまたま通りすがって
殺害現場を見てしまったので
太守夫人殺しの下手人に
仕立て上げたわけです
その場で殺すつもりが
逃げられてしまいましたがね」 |
ドルム |
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「それで口封じのために
シュラムの死神を雇い
後を追わせたというわけか……」 |
レンツェン |
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「まあ、そういうことです」
「母上は王家の姫だったわけですから
私にはリーヴェ王となる資格がある
こんな小さなミスで
せっかくのチャンスを失っては
たまりませんからね」 |
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オイゲン |
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「それにしても
おびただしい数の投石器ですな
命中すればまず生きては戻れませぬ
ドルム公爵らしい嫌な布陣ですな」 |
リュナン |
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「突破する策はあるのか?」 |
オイゲン |
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「装甲の高い騎士に突入させて
一つ一つ潰してゆくしかないでしょう
多少の犠牲はやむをえませぬ」 |
リュナン |
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「多少の犠牲か……」 |
オイゲン |
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「問題は橋の確保です
もし跳ね橋が上げられてしまえば
リーヴェ河を渡ることはできませぬぞ」 |
リュナン |
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「わかっている
だがむやみに突っ込んでも
損害が増すばかりだ
北に迂回して
跳ね橋を渡れればいいのだが……」 |