オイゲン |
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「リュナン様
兵士たちは逃げてゆきましたぞ」 |
リュナン |
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「……あの少女は?」 |
オイゲン |
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「無事、保護いたしました
こちらに……」 |
リュナン |
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「大丈夫か?」 |
サーシャ |
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「はい……
ありがとうございました」 |
リュナン |
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「彼らはウエルトの兵士たちのようだが
なぜ君たちを追っていたんだ?
それに君は高貴な家柄の人のようだが……」 |
オイゲン |
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「リュナン様
まだお気づきになられませぬか
この方はウエルト王国の王女
サーシャ様でございますぞ」 |
リュナン |
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「サーシャ王女!?」 |
サーシャ |
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「はい、お久しぶりです、リュナン様」 |
リュナン |
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「そうだったのか……
すまない、気づかなかった……」 |
サーシャ |
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「お会いしたのは
もうずいぶん昔のことですもの
忘れておられてもしかたありません」
「でも……私はすぐにわかりました
わずかな間だったけど、リュナン様には
優しくしていただきましたから……」 |
リュナン |
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「父上と共にウエルトを訪れたのは
僕がまだ10歳のときだった」
「幼い王女と遊んだ記憶はあるが
それがまさか君だなんて……
すっかり見違えてしまってわからなかった」 |
オイゲン |
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「いや、わたくしは覚えておりましたぞ」 |
サーシャ |
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「あなたは、リュナン様の守り役だった……
えっと……」 |
オイゲン |
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「オイゲンでございます、サーシャお嬢様」 |
サーシャ |
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「そうだわ、オイゲン将軍ね
覚えていてくれてありがとう」 |
リュナン |
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「……サーシャ王女
事情を聞かせてくれないか
この国はどうなっている?
王女である君が
どうして追われなければならないんだ?」 |
サーシャ |
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「リュナン様は
バルト戦役のことをご存知でしょうか?」 |
リュナン |
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「話は聞いている
半年前、バルト要塞を巡って
西部諸国同盟と帝国の大きな戦があり
西部同盟の大敗北に終わったと……」
「西部同盟軍を指揮していたロファール王は
行方不明になられたとも聞いている」 |
サーシャ |
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「ええ……
あの戦い以来、お父様の所在は不明です」
「お父様と共に出陣した諸侯や騎士たちも
その多くは戦死し
国に戻れたのはほんの一握り」
「そのために国の治安は乱れ
野心を持つ者たちが
好き勝手なことをするようになりました」 |
リュナン |
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「しかし、ウエルトほどの大国が
たった一度の敗戦で
それほど乱れるものかな」
「ロファール王は大陸5賢王の
一人に数えられるほどの方だ
国を離れるにあたっては
信頼できる者に留守を託したはずだが」 |
サーシャ |
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「ええ、有力貴族のコッダ伯爵が
国の守りを託されました
でも、最近になって
コッダ伯爵に野心が芽生え
前宰相が老齢で病に伏せるや
自ら宰相となって
民に重税を課したり
反対する家臣たちを勝手に追放したりと
その横暴は日に日に
ひどくなるばかりで……」 |
リュナン |
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「国王の留守を良いことに
王国を我が物にするつもりか
君の母上……
リーザ王妃はどうされている?」 |
サーシャ |
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「コッダの野心に気付いた母は
彼を追放して
マーロン伯を宰相にと決意され
その命令書を作られたのですが……」 |
リュナン |
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「マーロン伯?」 |
サーシャ |
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「東のヴェルジェを領地とする
父の臣下の一人です」
「老齢ゆえにバルト出陣には
加えられませんでしたが
忠節の志し厚く、国民も慕う立派な方です」
「父上は出陣にあたり、マーロン伯に
宰相を務めるよう求められましたが
伯は「その器にあらず」と固辞され
今もまだ、ヴェルジェ砦に
引き込まれたままなのです」 |
リュナン |
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「そうか……それで
サーシャがその命令書をたずさえて
ヴェルジェに行こうとしているのか」 |
サーシャ |
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「お母様は近衛騎士のケイトに
命令書を託されたのですが
もしことが知れた場合に
私が人質になることを恐れて
一緒に行くようにと言われました」 |
リュナン |
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「事情はだいたいわかった
それなら僕たちもヴェルジェに行こう
そのマーロン伯といわれる方に
僕もお会いしたい」 |
サーシャ |
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「でもどうしてリュナン様がウエルトに?
グラナダで帝国軍と戦っておられることは
噂で聞いていましたが……」 |
リュナン |
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「それはまた後で話そう
コッダの増援が来ないうちに
出発したほうがいいだろう」 |